コラム・エッセイ

岩波文庫白のカイエ 1

岩波文庫には、分野ごとに帯の色あります。白帯は、主に、法学、政治学、経済学、社会学に関わる分野の本です。 一度読んだ本。読み止しの本。積読の本。できれば実務にも繋がるように白帯を読んでみたいと思います。 書くために読むということでもしないと古典を読み続けることは難しいです。 そこで、まとまりがない書き物をしてみました。埋草にもならない代物ですが、どうかご海容ください。

〈参考文献〉

  • 『岩波文庫の赤帯を読む』『岩波文庫の黄帯と緑帯を読む』(門谷健蔵著/青弓社)
  • 『読書と社会科学』(内田義彦著/岩波新書)
  • 『読書術』(エミール・ファゲ著/石川湧訳/中条省平校注/中公文庫)
  • 『本を読む本』(M.J.アドラー C.V.ドーレン著/外山滋比古 槇未知子訳/講談社学術文庫)

『日本国憲法』(長谷部恭男解説)(白33-1)  日本国憲法とあわせて、不戦条約、ポツダム宣言、降伏文書、安全保障条約、英文の日本国憲法などが収録されています。  久しぶりに憲法を前文から通読し、素読の大切さを感じることができました。テキストのみに向き合ったときにどんなメッセージを受け取ることができるか、これまで積み重ねられてきた実践はなにかなどを問いかけることによって、憲法全体の姿を再認識することができます。  また、所収の条約などとあわせて読むことにより、時代(歴史性)や場所(国際性)といった軸の中に置いて、広い視野で考える契機となります。  憲法、立憲主義、個人の尊厳といった光を、自らの関わる民事・家事・刑事・行政などの各事件の実務に照射する。  逆に、日々の業務の中で憲法との連関を常に意識する。  これらの大切さを再認識しました。

〈参考文献〉

  • 『憲法を生かすもの』(憲法問題研究会編/岩波新書)
  • 『法曹実務にとっての近代立憲主義』(判例時報2344号臨時増刊)
  • 『特集 人の「尊厳」と法秩序』(法学セミナー№748・2017・5)

『憲法講話』(美濃部達吉著)(白32-1)  「この国のかたち」を考えるとすれば、大日本帝国憲法に遡行する必要があるでしょう。  口語体で書かれていますから、500頁超であるにもかかわらず、比較的読みやすいと思います。『憲法義解』とあわせて読むと理解が深まります。  たしかに、法は文化や伝統も背景にしながら成立・発展するのでしょう。わたくしも日本の歴史・伝統・文化をとても大切に感じています。  ただ、どのような立場をとるにせよ、憲法に向き合う際には、「かたち」などいった抽象的・情緒的なコトバに惑わされない醒めた目も併せ持つ必要があると感じています。  かつて「五日市憲法」などの多様な憲法構想があったことにも触れてみると、日本国をどのように構想するのかという現在の憲法改正論議において、熟議が尽くされているのか、慎重に考えてみる必要があると感じています。

〈参考文献〉

  • 『憲法義解』(伊藤博文著/宮沢俊義校注/岩波文庫)
  • 『日本の近代とは何であったかー問題史的考察』(三谷太一郎著/岩波新書)
  • 『憲法構想』(江村栄一校注/日本近代思想体系9/岩波書店)
  • 『この国のかたち 一~六』(司馬遼太郎著/文春文庫)
  • 『秩序と規範 「国家」のなりたち』(岩波講座日本の思想第6巻)
  • 『アーキテクチャと法』(松尾陽編/弘文堂)

『危機の20年 理想と現実』(E・H・カー著/原彬久訳)(白22-1)  日常業務を通じても、国際的な人権感覚や国際制度への目配りなどの国際感覚が必要な時代であると肌で感じています。  国際機関で活躍する日本の法曹も今後増加していくことが望ましいでしょうし、各分野で市民や弁護士が国際的に連携して活動することも、とても意義があると思います。  本書をきっかけに、市民社会間の協力といった点や人間の安全保障などについても、あらためて考えていきたいとおもいます。  また、国際政治という大きなテーマもさることながら、政治学からみた法学のとらえ方、ユートピアニズムとリアリズムや道義と権力といった二項対立、国際政治を通じてみることのできる紛争の原初的な側面などについて、わたしたちの日常の実務にとっても示唆に富む内容です。  訳者の原氏の解説の中で、「ユートピア的リアリズム」という言葉が紹介されていました。弁護士という職業が有すべきエートスのひとつではないかと強い印象を受けました。

〈参考文献〉

  • 『歴史とは何か』(E・H・カー著/清水幾太郎訳/岩波新書)
  • 『国際政治』(高坂正堯著/中公新書)
  • 『人間の安全保障 国家中心主義をこえて』(武者公路公秀著/ミネルヴァ書房)
  • 『君主論』(マキャヴェッリ著/河島英昭訳/岩波文庫)
  • 『痴愚神礼賛』(エラスムス著/渡辺一夫、二宮敬訳/中公クラシックス)
  • 『知識人の裏切り』(ジュリアン・バンダ著/宇京頼三訳/未来社)

『権利のための闘争』(イェーリング著/村上淳一訳)(白13-1)  職業としての弁護士は闘争という原点を持つということを、あらためて考えさせられます。わたしにとっては、折に触れて読み返す賦活剤のような本です。また、読み返すごとに、権利=法に対する意識・態度の彼我の違いなど法文化などについても考えさせられます。  個別法制を束ねる横断的な視点をもつ意味でも、『法の実現における私人の役割』や『日本人の法意識』などの名著も参看しながら、たとえば消費者法や民事執行法などの現下の法動向を考察することも興味深いです。  また、イェーリングがいう「法のための闘争」と、裁判員裁判や民事行政事件への国民参加の検討などの問題を対比させて考えてみたいと思っています。  さらに、これまで権利=法のための闘争などと言挙げしてこなかったわたしたちの国においても、これから市民がどのように政治に関与していけるのか。冒頭の「日本国憲法」にも往還する問題と考えています。  私憤と公憤の合わせ鏡の中に権利を置いてみると見えてくるものがあるのかもしれません。

〈参考文献〉

  • 『「権利のための闘争」を読む』(村上淳一著/岩波セミナーブックス)
  • 『法の実現における私人の役割』(田中英夫、竹内昭夫著/東京大学出版会)
  • 『日本人の法意識』(川島武宣著/岩波新書)
  • 『日本人の法観念―西洋的法観念との比較』(大木雅夫著/東京大学出版会)
  • 『比較法文化論』(木下毅著/有斐閣)
  • 『政治的思考』(杉田敦著/岩波新書)
  • 『政治の精神』(佐々木毅著/岩波新書)

(2019年8月8日)

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