岩波文庫白のカイエ 2
科学技術や産業構造の変化と社会・経済・デモクラシー・メディアとの関係、職業法律家のあり方などを考えたいと思い、次の4冊を取り上げてみました。
『アメリカのデモクラシー』(トクヴィル著/松本礼二訳)(白9-2~9-4)
アメリカ合衆国やデモクラシー・ポピュリズムなどについて考えさせられることが多い
時勢でした。また、司法制度改革から20年、裁判員裁判開始から10年を経過し、デモクラシーと司法の関係についても考えてみたいと思いました。
さまざまな読み方や考察の手がかりを与えてくれる本ですが、たとえば法律家層の役割、陪審制、多数の暴政、人種問
題に触れている箇所など興味深いものでした。
日本は、明治時代や第二次大戦後などの転換期に、ドイツ法やアメリカ法などの西欧法を継受し、その影響を受けてきました。
法意識や社会秩序といった古層の上に、デモクラシー法の支配、基本的人権などの理念や言葉が、どれだけ土着して内発的な発展を遂げ、
わたしたちの生活感覚として根付いているといえるのでしょうか。
法の普遍性と個別性・歴史性の双方に目配りしながら、社会・経済・国家などの広がりも意識しつつ、
わが身に近いところから地道に法実践を続けたいと思っています。
〈参考文献〉
- 『特集 司法制度改革20年・裁判員制度10年』(論究ジュリスト№31/有斐閣)
- 『立憲主義の企て』(井上達夫著/東京大学出版会)
- 『自由の条件 スミス・トクヴィル・福沢諭吉の思想的系譜』(猪木武徳著/ミネルヴァ書房)
- 『漱石文明論集』(夏目漱石著/岩波文庫)
- 『アメリカニズム 「普遍国家」のナショナリズム』(古矢旬著/東京大学出版会)
- 『民主主義 古代と現代』(M・I・フィンリー著/柴田平三郎約/講談社学術文庫)
『世論』(W・リップマン著/掛川トミ子訳)(白222-1、222-2)
わたくしたちは、本書が書かれた一世紀前とはまったく異なる情報環境にあります。
そうであるにもかかわらず、本書を読みなおすことは、さまざまな情報が奔流する中で、
ファクトとフェイクの違いやステレオタイプやバイアスのとらわれなどをあらためて意識し、
世界・社会への関わり方、メディアリテラシーを考えなおすきっかけをあたえてくれます。
また、世論や情報社会について考えることは、たとえば、事実認定(ファクト・ファイン
ディング)、ネット言論とデモクラシー、SNS(ソーシャルネットワークサービス)にお
ける誹謗中傷、「裁判と世論」の関係、裁判員裁判とペナルポピュリズム、メディア対応などさまざまなテーマにも関連します。
匿名多数という気柱が肩に圧し掛かっていないか、気分・感情の風に翻弄されてはいないか、
責任を伴った明確なルールの定立と運用といった社会のあり方や異なるものに対する寛容さといったものとの間に、いまだおおきな懸隔があるのではないか。
情報環境について考えることは、社会における権利・自由・責任のあり様を自問することにもつながっていきます。
〈参考文献〉
- 『FACTFULLNESS』(Hans Rosling 他著/SCEPTRE)
- 『#リ・パブリック』(キャス・サスティーン著/伊達尚美訳/勁草書房)
- 『グローバル化する厳罰化とポピュリズム』(日本犯罪社会学会編/現代人文社)
- 『世間とは何か』(阿部勤也著/講談社現代新書)
- 『空気の研究』(山本七平著/文春文庫)
- 『輿論と世論』(佐藤卓己著/新潮選書)
『産業革命』(T・S・アシュトン著/中川敬一郎訳)(白144-1)
人工知能(AI)、自動運転、IoT、ドローンなど科学技術が目覚ましい進歩を遂げています。
第四次産業革命、Society 5.0 などさまざまなことが唱導されているようです。先端技術と法が
交錯する領域がますます増大している印象を受けます。裁判のIT化、裁判データーの収集と
ビッグデータとしての活用などの足元の変化にも適応していく必要があるのでしょう。
18世紀の産業革命を振り返ってみることは、技術の進歩が社会経済や法に与える影響を考える参考になりそうです。
ただ同時に、科学が人間に幸せをもたらすものなのか、それとも多くのリスクをもたらすものなのか。
光と影のそれぞれの面について、どのような問題意識を持つのかについても鋭く問いかけられているようにも思われます(science,technology and society)。
経済の発展に応じた法の高度化に応えながらも、人文知や法の賢慮などをないがしろにしない多面的でバランスのとれた視野が求められていると感じます。
〈参考文献〉
- 『経済史の理論』(J・R・ヒックス著/新保・渡辺訳/講談社学術文庫)
- 『AIと社会と法』(論究ジュリスト№25~33/有斐閣)
- 『第四次産業革命 ダボス会議が予測する未来』(クラウス・シュワブ著/世界経済フォーラム訳/日本経済新聞社)
- 『危機感なき茹でガエル日本』(経済同友会著/中央公論社)
- 『科学・技術と現代社会』(池内了著/みすず書房)
- 『科学論入門』(佐々木力著/岩波新書)
『職業としての学問』(マックス・ヴェーバー著/尾高邦雄訳)(白209―5)
ベルーフとしての学問という本書には、たとえば、仕事としての法ということを対置することになるのでしょうか。
職業、天役として法に関わるとはどういうことか。法律家としてのアイデンティティやコミットする価値についてあらためて考えるきっかけとなります。
弁護士数が増大し、弁護士という職業集団が有する職業観も多様化しているとすれば、あらためて西欧の法律家層の歴史を概観し、日本の弁護士・弁護士会の職業的歴史・歩みを学びなおすことが、「精神のない専門人」(ヴェーバー)とならないためにも必要であると思っています。
人権、正義といった基本的な価値の意味を問い続けながら、理論と実践の往還の中で、情熱をもって仕事(ザッヘ)に仕え、日々の要求に従い、
己の臨床的な技量を磨くこと、実務を通じて、基本的人権の擁護、社会正義の実現といった抽象的な理念の内容を豊かにし、少しでも体得したものがあれば、
それを社会に還元していくことなどが、この仕事の「まことの花」につながっていくと信じています。
〈参考文献〉
- 『社会科学における人間』(大塚久雄著/岩波新書)
- 『講座現代の弁護士1~4』(日本評論社)、『職業史としての弁護士および弁護士団体の歴史』(大野正男著/日本評論社)
- 『特集 いま、社会のあり方を考える』(法学セミナー2020・6№785)
- 『特集 法の核心/法学の基本―法教育を素材に考える』(法律時報92巻1号/日本評論社)
- 『風姿花伝』(全訳注市村宏/講談社学術文庫)
- 『言志四録(一)~(四)』(佐藤一斎著/川上正光全訳注/講談社学術文庫)
(2020年7月5日)